石本藤雄と日本の伝統文様、ひらがな。新たな名作が登場。
2023.10.27
- Journal
石本藤雄デザインのてぬぐいシリーズ2003年秋の新作を発売します。
今回の新作は、手書きのひらがなが散りばめられた「あうん」「かるた」、伝統的な格子のデザイン「べんけい」「中べんけい(ちゅうべんけい)」の4種。手がけた石本に、デザインにまつわる話を聞きました。
はじめての文字によるデザイン
33×90cmサイズのてぬぐい生地の中に、ひらがなを散りばめたデザインが「あうん」と「かるた」。石本藤雄による味のある手書き文字が特徴です。石本がテキスタイルデザインにおいて、文字をモチーフとして使うのは、今回が初の試みとなります。
「なんとなく文字がパッと出てきて。文字を拾って読んでいくということがあるわけですよね。だから、文字そのものを拾って遊ぶことができるんじゃないかと思ったんです」
思いついたアイデアを、たちまち手を動かして形にしました。
「ひらがなの46文字をね、意味もなく散りばめたらどうかと。それで、この紙の中に、バンバン書いていったわけ。これ、活字を並べても絶対面白くないと思うんですよね。読めればいいんです」
一枚の紙の中に、手書きでランダムに書いていった「あ」から「ん」までの46文字。それを2枚つくり、繋げて、バランスを整えて、てぬぐいのデザインとなりました。
あうんとかるた
この原画を元に、ブルーの文字の「かるた」、白文字の「あうん」が生まれました。「あうん(阿吽)」は、「あ」から始まり、「ん」で終わることから。万物の始まりと終わりを意味する言葉でもあります。一方、「あうん」よりも軽やかな印象の「かるた」は、文字を目で追う様が、かるたの絵札の文字を探すことに似ていることから名付けられました。
マリメッコのテキスタイルデザインやMustakiviの商品のネーミングなど、時には遊び心があり、時には想像の余地がある言葉を選んできました。作品と選ぶ言葉から醸し出される世界観も魅力の一つと言えます。
「昔、グラフィックの先生に、文学者になった方がいいんじゃないかって言われたよ」と語る石本藤雄。中学生の時につくった俳句で賞をもらったことや古典の平安朝の文学に関心があったなど、聞けば聞くほど様々な文学にまつわるエピソードが飛び出してきます。そんな石本だからこそ生まれたデザインと言えるのではないでしょうか。
文字を拾い、読む面白さ
マリメッコやアラビアで活躍し、フィンランドで半世紀を過ごした石本藤雄ですが、まず浮かんだのはひらがなだったようです。
「やっぱり、ひらがな、あいうえおだね。言葉が、音が飛んでいくわけ」
飛ぶ音をつかまえて、繋げることによって、言葉になり意味を持つ。意味のないものから意味を見出す––、そんな文字を拾い、読む面白さを味わえるてぬぐいとなりました。ぜひ、空間に飾ってみてください。
「眠れない時に、文字を拾ってみればいいよね。何か言葉ができたら、満足してパッと眠れるんじゃない? きっと」
秋の夜更けにふと眺めたら、どんな言葉に出会えるでしょうか。
格子の中でも弁慶格子を
「かるた」と「あうん」に調和する格子柄のデザインも手がけました。ブルーとグレーの大きな格子が「べんけい」、それより小さい幅の浅葱(あさぎ・ブルー)と萌葱(もえぎ・くすみグリーン)の格子が「中べんけい」です。どちらも日本の伝統的な格子柄の一つ、「弁慶格子(べんけいごうし)」を石本流にデザインしたものです。
「テキスタイルの基本的な柄に、格子柄というのがあるのですよ。弁慶格子もその一つで、てぬぐいにもある伝統的なデザイン。そういうものをテキスタイルで振り返って、もう一度見直せないかなと思って」
そもそもの弁慶格子は、2種類の色が交互に並ぶ、1cm以上の太い棒縞(ぼうじま)を、縦横で組み合わせた格子のこと。歌舞伎の衣装にもなっており、弁慶格子としては黒と白がベーシックですが、様々な色のデザインもあります。
てぬぐいのために石本藤雄が考えた「べんけい」は、「ブルーと白の縦縞」と「青みがかったグレーと白の横縞」が重なったデザインに。「シンメトリーになるとつまらない」と語るように、大柄のチェックを絶妙なバランスで配置しています。
一方、「中べんけい」は、「浅葱と白の縦縞」と「萌葱と白の横縞」が重なるデザイン。「べんけい」よりも線が細いことから、中くらいのべんけいというネーミングになりました。「他の3種とはちょっと違ったキャラクターにしたと思う」と振り返ります。
どちらのべんけいも縦縞と横縞を重ねたシンプルなデザインですが、実は、同じ幅に見えるように、白と色の線の幅を変えており、細部にまで気を配っています。線と線の重なりは、実際に染めてみないとわからない未知の部分でしたが、狙いが当たったようです。「綺麗な色が出ていて、注染の良さだよね。普通のプリントでは、こんなに綺麗な重ねは出てこないと思う」と語るように、染めならではの表情を楽しめるデザインです。
ベーシックなデザインの見直しを、これからも
縦と横の縞が交差してできる格子柄。そのバリエーションは、線の太さや色によって無限にあり、シンプルながら奥が深い世界です。そんなテーマに、てぬぐいのデザインとして取り組んだ石本藤雄。格子だけでなく、縞(しま)や絣(かすり)など他の伝統柄にも、今後、取り組みたいとアイデアを温めています。
故きをたずねて、新しきを知る。石本藤雄が伝統柄を振り返り、新たに生み出すシリーズとしては、見逃せない格子柄です。シンプルであり、どんなスタイルにも馴染みやすいデザインは、あなたの暮らしを彩ります。