秋を彩る、なでしこのてぬぐい
2024.08.30
- Journal
石本藤雄・2024年秋てぬぐいの発売です。
この秋の新作3柄は、秋の七草の一つでもある撫子(なでしこ)がテーマになっています。
カラフルな花を軽やかなタッチで描いた「カーネーション」、カラフルな色の花が咲き誇る「なでしこ」、1994年に制作した絵皿のドローイングをもとに、てぬぐいの中にモノクロの世界で表現した「なかよし」の3種。石本のこれらのデザインにまつわる話を聞きました。
軽やかなタッチを楽しむ、「カーネーション」
手の勢いが感じられる力強い筆のタッチと、カラフルな色使いによって魅力的に表現された花々。今回のなでしこシリーズの中で、最初に浮かんだデザインがこの「カーネーション」でした(カーネーションはナデシコ科ナデシコ属)。
まず、4つのカーネーションを線画で描き、色を塗っていきました。花の色は、ピンク、黄色、白、赤の4色。このデザインでは色で迷うことはなかったそうです。
「だって、この感覚からいったら迷うことはないわけ。ひらめきなの。塗りは、ベタできっちりと入れることもできるけど、雰囲気としてはもっとラフな感じでいきたかったんです。それで色の線で埋めたらどうかということで、これに」
原画の色よりも、実際の染め上がりは落ち着いた色となり、そこがまた秋らしさにつながっています。
作品から派生した黒と白の世界「なかよし」
モノクロのモダンなデザイン「なかよし」は、石本が1994年に制作した絵皿に描いたカーネーションのドローイングを、手ぬぐいをキャンバスに、ポジ(白地に黒の線)とネガ(黒地に白の線)で表現しました。
「その昔やった、カーネーションの絵皿を思い出して。その写真を撮って、注染のてぬぐいになるように、まとめていったわけね。それで、それをそのままポジネガにした」
ドローイングは、カーネーションの姿を大胆に捉えています。
「こういうカーネーションって、あると思うんだけどね。僕の空想上のものかもしれないけど、一応、こういう萼(がく)のところを見ればね、カーネーション」
てぬぐいへの絵柄の配置は、最初は悩んだと言います。
「最初はアイデアがなくて、さて、どうしましょうとなって。2つ並べて、ポジネガにした形で、結果としては良かった。似たようなものが2つ並んでいるから、仲がいいんでしょう、きっと」
黒と白の世界が2つ並ぶことから、「なかよし」というネーミングが生まれました。
シリーズを彩る甘い表現の一枚、「なでしこ」
秋の七草のなでしこといえば、カワラナデシコ。花びらの先がギザギザになっているのが特徴的な可憐な花です。この花をデフォルメしたかたちを、大小さまざまに散りばめて生まれたデザインを「なでしこ」と名付けました。
「先にデザインした「なかよし」と「カーネーション」だけだと、なんか色気がないのね。それでもっと素直になでしこを表現できないかっていうことで。だから、これは可愛い感じ。色気っていうか」
ピンクの花の中に、赤やグリーン、白い花が覗いているのがポイントになっています。
「ちょっと生きた表現が欲しくて。1色だけだと、だるくなるからね。もちろん、大小があって、変化をつければ、それなりに生きてくるけれど」
生きた表現「なでしこ」が、今回のなでしこシリーズに彩りを添えています。
「好きなデザインはどっちかというとね、格子とかさあ、硬い方やね。でも、やっぱり甘いものもしないとね、成り立たないから」
石本の創作に登場してきた、なでしこ
「秋だから、なでしこをやりたいと思った」と語る石本。
石本にとって、なでしこは、幾度もデザインのモチーフにしてきた花です。マリメッコのテキスタイルデザインやMustakiviの商品で、小皿やてぬぐいの絵柄になっています。
作品のモチーフにもなっていて、2007年に赤いカーネーションのレリーフを発表しており、書籍『石本藤雄の布と陶』の中で紹介されています。この作品は、フィンランドを代表するガラスデザイナー・オイバ・トイッカに渡ったそうです。
「これ(カーネーションのレリーフ)は、てぬぐい「なかよし」に近い。感覚的には同じような。花や萼の描き方が近いでしょう」
石本の創作を語る上で欠かせない、なでしこの花が、「てぬぐい」になりました。拭く、敷く、巻く、包む以外に、壁にかけたり、ブックカバーにしたりと、使い方は自由。日々の暮らしの中でお楽しみください。