石本藤雄とゴブレット

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石本藤雄とゴブレット

石本藤雄の”かたち“を故郷で製作

ONNEA ゴブレットシリーズは、2020年9月にフィンランドから愛媛に拠点を移した石本藤雄さんと開発を進めてきた商品です。

「ゴブレット」とは、洋食器の中で、ソフトドリンクや酒を飲むシーンで使われる脚つきの酒杯のこと。石本藤雄さんがフィンランドから日本に拠点を移した際、自宅に飾っていたアート作品や愛用していた日用品も持ち帰りましたが、その中にもカイ・フランクやオイバ・トイッカのゴブレットが存在していました。

一般的にはガラスや金属製が多いゴブレットですが、愛媛の焼き物の産地、砥部(磁器)で制作しました。30年あたためていたアイデアが開花した、その開発のストーリーを紹介します。

陶芸を学び始めた頃に生まれた形

個性的な形と色展開のONNEA ゴブレットシリーズ。そのベースになったのは、石本藤雄さんが過去に手がけた作品でした。

遡ること1989年。当時、マリメッコのデザイナーとして活躍していた石本さんは、半年間休職し、フィンランドの国民的製陶所であるアラビア社のアートデパートメントの客員作家として陶芸を学びます。つくるイメージの中に、脚つきのカップの形がありました。

「焼き物でゴブレットがいいじゃん、っていうか、ゴブレットとは言えないけど、盃洗っていうものが日本にはあるんですよ。うちにもあるけど」
その形に面白みを感じていたという石本さん。それを思い浮かべながら、轆轤(ろくろ)を使っての制作が始まります。

「まだ、轆轤を勉強した頃ね。3か月ほどやったのが記憶にあるよ。こうつくっていてさあ、轆轤そのものは面白いからね」と、轆轤の感触を思い出す石本さん。この時、数点の器が完成しました。

「轆轤っていうのは、焼き物をやる時、一つの基本、基礎だと思うよね。でも、結局、僕自身には、そんなに轆轤があっているとは思えなかった」(石本さん)

轆轤に面白みを感じたものの、轆轤10年と言われる陶芸の世界。1年後の成果発表会を見据えて、轆轤の道を極めるよりも、土と釉薬と対話しながら、自らの表現を模索することにした石本さん。そのため、この時に制作した器は、石本さんの陶芸の歴史において貴重な轆轤を使った作品になりました。

その後、この器を元にシリーズを考えて、アラビア社に提案したこともあったそうですが、量産に向かず、残念ながら商品化には至りませんでした。それから、このアイデアは、石本さんの中でずっと眠ったままになっていたのです。

陶芸を学んだ当初に轆轤で制作した器の写真。このうち、1点は石本さんの手元にあるはずが、行方不明となってしまった

すこし屋の職人による、ゴブレット製作の轆轤の様子

アイデアから30年の時を経て、新たな形に

マリメッコを定年退職後、陶芸家として数々の作品を発表してきた石本さん。
2020年9月に、フィンランドから愛媛に拠点を移したことで、Mustakiviとの距離も近くなり、商品開発が進みます。帰国して間もない10月頃、Mustakiviオーナー・黒川と新商品のアイデアを話す中で、このゴブレットの存在を思い出した石本さん。その話を聞いた黒川は、是非とも形にしたいと考えました。

そこで、持ち帰ったはずの作品を探した石本さんでしたが、どうしても見つかりません。そのため、自ら画用紙を切り貼りして模型をつくります。つくるうちに、石本さんの中でシリーズ化する発想が広がり、出来上がった模型は7種類。つくりながら、バランスを考えて、大きさによってカップと脚のプロポーションを変えています。

こうしてアイデアは固まりつつあるものの、どこで製作するのかが課題でした。ちょうど、同時進行でそば皿の開発を砥部焼の窯元「すこし屋 松田窯」と進めており、その打ち合わせですこし屋を訪れた石本さん。商品である砥部焼のワイングラスが目に止まり、すこし屋ならばゴブレットも形にできると閃きます。

ワイングラスを見た3日後に、模型を持ち込んで、ゴブレットの最初の打ち合わせとなりました。

 

石本藤雄さんが画用紙を使って制作した模型の一部。実際には、模型よりも大きな形(大鉢)も開発途中で加わっている

すこし屋を訪問する石本さん

石本さんとすこし屋・松田夫妻との打ち合わせ。模型とすこし屋のワイングラスを見比べながら、細かいディテールを詰めていった

手に取った時、指がホールドする感触、カップ内部の底面の形、カップ部分と脚のバランスなど、ポイントを伝えていきます。持ち上げた時にちょうど指がかかる位置にあたる、カップと脚の接合部分は、模型でも試作でも何度も感触を確かめていました。

形状とともに、こだわったのは色。伝統的な砥部焼は白磁に呉須で文様が描かれているのが一般的です。カラフルな色は珍しく、陶器の釉薬の色見本やカタログまでも取り寄せて、そこから色を選び、磁器でどのような色が出せるのかを試作していきます。

風合いなど、実際に焼いてみないと分からないことも多く、その仕上がりを見て、さらに他の釉薬を試して色展開を広げるなど、ラインナップを絞り込んでいきました。

サイズ×釉薬の種類×釉薬のかけ方(カップと脚で色を変えるなど)×焼き方(酸化または還元)で無限の組み合わせとなるため、打ち合わせ内容のメモを取るのも一苦労でしたが、この細かなオーダーにも応えてくれたすこし屋。

「色を使い分ければ、作る人は大変やと思うけど、それをやってくれるからね。普通はそこまでできないって言われるかも。すこし屋さんが残していた昔の仕事場をこういうのを焼くために開けてもくれたし」と、石本さんもすこし屋の協力あっての完成の道のりであったと振り返ります。

模型を元に、指示していく

どの色に近づけていくのか、色見本やカタログの色を見ながら、コミュニケーションを重ねていく

細かなやり取りを重ねて、模型の制作から約1年後に、完成したONNEA ゴブレット。

形や色などそれぞれの個性を大切にしつつ、組み合わせると統一感もある、石本藤雄さんらしさが詰まったシリーズになりました。石本さんが名付けたシリーズ名のONNEA(フィンランド語)は、おめでとう、お幸せにという意味。喜びのシーンに寄り添う器に相応しいネーミングです。

石本藤雄さんの中にあったものが、30年の時を経て蘇り、新たな形となって世に出た商品。Mustakiviの商品の中でも、石本さんのテイストが強く出ているアイテムですので、好きな色、好きな形を、暮らしの中で、お楽しみください。

ゴブレットの商品はこちら

完成したONNEA ゴブレット。カラーバリエーションを含めると全20種

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