【Long Interview】「蕾 -つぼみ-」展に寄せて

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【Long Interview】「蕾 -つぼみ-」展に寄せて

2022年7月22日〜9月11日にかけて開催された石本藤雄「蕾」展。
同年2月に道後(愛媛県松山市)にアトリエが完成し、新たな拠点で最初に手がけた作品になります。慣れ親しんだフィンランド・アラビア社の環境から一変し、まずは、制作環境を整え、土や釉薬を取り寄せてテストするところから始まりました。試行錯誤の末に生み出された作品は、今にも花開きそうな生命力を湛えた「蕾」。その姿に、皆さんは何を感じたでしょうか。

会期終了間際の展示会場にて、制作の意図や今後について、石本藤雄さんに聞きました。

花をテーマに、未知のものを含んだ形に

――帰国後、初めて手がけた新作を、蕾というテーマにしたのはなぜでしょうか。

花をテーマにして、何かオブジェが作れないかと思っていたんです。中でも蕾という状態は、花が開く前の、ある意味でまだ未知のもの。どのような花が開くとか、まだ分からないわけですよね。どうなるかというのは先のことで、そんな未知のものを含んだ形にしたらどうかと思いました。

あと、この新しい場所で、どういうものが作れるだろうかという考えもありました。手の中で作れる大きさならば焼くことも多分可能だろうし、釉薬を掛けるにしても、筆で塗るというのは一般的なテクニックだから、いいんじゃないかと。だから、もし、アラビアで制作していた時と同じような釉薬を吹き付ける設備があって、それで色をつけていたら、作品の表情は全然違ったものになっていたと思うんですよね。

今回の蕾は、筆で塗っているから、結構、生々しいと思います。いろんな色ムラがあったりね。塗った面が一様なものになれば、それはそれで完成度が出てくるんですけど、まあ蕾そのものがまだうんと初期のものという意味なので、それにはこの表現があっていたのではないかと思います。
 

新しいアトリエでの挑戦

――まず、形を作るところから始まりますが、どのような土を使われたのでしょうか?


土は、僕がオブジェというか、こういうものを作りたいと考えていた時に、以前、愛媛県の窯業技術センターにいた方が参考に取り寄せてくれまして、3種類あります。まず信楽の白い土と赤い土。赤い土は、少し赤い色で、素焼きの時は赤いですけど、焼き上がると濃い色になります。もう一つは伊賀です。伊賀の土は結構荒くて、信楽よりは白い。釉薬ってだいたい透明なものなので、その下にある土の色が作品にもすごく影響してきます。結局、作ってみて信楽の土の方が柔らかい感じが出るので、制作の終盤はほとんど信楽の土になりました。


――アラビア社(フィンランド)で使っていた土と違いはありますか?


アラビアで使っていた土は、この信楽の土と似たようなものなんですけど、色そのもの、焼き上がりの色はもっとグレーでしたね。ベージュですけど、グレイ味が強い。

この日本の土、特に信楽の土はすごく扱いやすいものでした。制作中にひびが入るということがほとんどなかったです。ここで40個ぐらい作って、その後、追加で作った時に、1個だけヒビが入った。だいぶ気が緩んでいたんですね。でも、それは修正して、ちゃんとうまく終わりましたけどね。だから、すごく扱いやすいと思います。

僕は、(作品の制作においては)あんまり磁器には興味がないので、磁器で作った経験はないけれど、やっぱり土(陶器)の方が扱いやすいものなんじゃないかな。土のいつまでも柔らかくデレデレしていなくて、あるところで、こう固まってくる感じが。

――石本さんの作品において、造形に加えて色彩も魅力の一つですが、釉薬も国内で取り寄せて、まずはテストピースを作成したそうですね。

自分自身で、色の粉を使って釉薬を作るというのが初めてでした。だから、最初は分からないままにやっていて全くうまくいかなかったですね。色が定着しなかったです。でも、そのあとに、濃くしたり薄くしたり。実は、一度ではあんまり良い表情が出なくて、2度焼きしたものもあります。

あと、釉薬ではなくて、チューブに入った陶芸用の絵の具があるんですよ。それを、塗り込んでその上に透明釉を掛けるとかマット釉を掛けるとか、そういう方法もあります。それとあと色絵の具をただ塗っただけで釉薬を掛けないということもやっています。

――同じものが二つとない形ですが、どのように作っているのでしょうか。

半球の型があり、その中に粘土を入れて、まず半球を作ります。その半球二つを貼り合わせて球に。その後、幹というか脚の部分を取り付けています。それで一昼夜おくと、次の日には硬くなって、それをそのままボンと置いても立ち上がっている形で、デレンとならない。柔らかいと、すぐデレンと落ちてしまうのだけど。でも、硬くなり過ぎたら、周りの葉っぱや額を取り付けるのが難しくなるから、その頃合いが大事なんですよ。だから休みなくやらないといけないんですよね。こういう粘土の仕事っていうのはね。始めると毎日アトリエに出てこないといけなくなることも。

形を作る段階では、色は何も考えていないです。形を作る上においては、ただ粘土をいかに周りにくっつけて、あとどうするかっていうことを考えていて、色は素焼きした後で四苦八苦します。これはピンクがいいのか、何がいいのかね。別に決まってないから形そのものを作る段階で、これはピンクの花で、緑の額があってとかそういうのはないんですよ。あまりそういうのに縛られたくない。

――最初から明確なイメージを決めて、作っているわけではないのですね。

作りながらですね。最初から何かスケッチをして、形をある程度掴んだ上で物を作るのではなくて、こう作りながら。まあある程度、玉の周りに、このぐらいの丸いものが5弁あるとか、尖ったものがあるとか、それはその段階でも考えています。

で、周りにつけて、それにあとどういう筋を入れるか、何もないものにするか。まあ、それは一つの表情を出すためにやっているわけですけど。素直にふわっと入ったら1番いいんですよね。あんまり考えることはないと思うんですよ。その前ちょっとした線の揺れとか、そういうのがもうほとんど大差ないと思うんです。

終わりは、やっぱり、ここ、玉の部分ですよね。この中の玉の表情をどうするか。その前にこの筋の入り方とかそういうのはもうできていたと思います。

――同じものを作るという選択はなかったのですね。

それはできないです。同じものを作るのならば型を作ってやればその目的は果たせるけど、そういうものではなくて、形そのものは、もっと自由なものと考えています。

――最終的に40を超える個性ある形が生まれましたが、これだけ作り終えてどのような気持ちですか。

なんか……、まあ気ままなものですね。気ままに作って、それでまあ、なんとか様になったなっていう感じで。このスペースでうまくいったんじゃないかと思います。

これからも、このアトリエから

――フィンランドにいた時と日本との違いはありますか?

それぞれの評価というか、その関心というか、そういうものを今回は強く感じましたね。フィンランドで作っていた時は、それはあまりなかったです。まあ、フィンランドで発表するというのでなく、作品をほとんど日本に持って行っていましたから。でもやっぱり、側でいろいろ評価なり、なんかこう関心が耳に入ってくる、そういうのは大変嬉しいことです。

 

――今後もここで制作を続けていくのでしょうか。

今のところ、はっきりとしていないけど、四角い折り紙の作品を考えています。この次に、ここ(Mustakiviのギャラリー)で、ずらりと並べたいなと。それは吹き付けて色を付けるので、そのブースがいつ手に入るかによりますが。

それはアラビア社で、一度制作している作品です。色紙を折って出てくるあの線の面白さを立体化できないかと思って。普通、折り紙だと、それで鶴を作るとか、そういう一つの形にしてしまいますが、平面そのものが、ある折る段階で立体化しているわけですよ。その瞬間をなんか形にしたいなと思った訳です。

それはさて、ここではどうなるか。今はその中の1種をお皿か何か使えるものにできるかなと思って、今、やっているんですよ。

――それはとても楽しみです。お客様からは、レリーフを望むたくさんの声をいただくのですが、今後、レリーフ作品を作る予定はありますか?

そうですね。あの吹き付けのブースができれば、考えます。

――それはファンの方が待っていると思います。ありがとうございました。


 

81歳を迎え、故郷・愛媛の新たな拠点で始まった再出発。
今あるもの、今の環境でできることという制約はありつつも、自由に、心が赴くままに生み出していく。そして、これからも。


Mustakiviでは、石本藤雄さんが何を考え、何を生み出していくのか、これからも石本さんに寄り添いながら、皆さんにお届けしていきます。
 

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