石本藤雄講演録「マリメッコでのテキスタイルデザインを語る」3

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石本藤雄講演録「マリメッコでのテキスタイルデザインを語る」3

石本藤雄の故郷・愛媛県砥部(とべ)町は、砥部焼の産地になります。この故郷の地で、2022年4月22日に石本藤雄と砥部焼の窯元の方々との交流会が開催されました(主催:愛媛県、場所:愛媛県窯業技術センター)。
会の中で、石本藤雄がマリメッコのテキスタイルデザイナー時代に手がけた多数のデザインの中から特徴的なものを数点選び、貴重なエピソードを語りました。そのスピーチの第三弾です。


前編はこちら


 

配色の変化で、広がる世界

⚫︎Maisema
この柄は、僕自身のデザインとしては、1番、代表作になったものです。
その当時ですね、こういったクレヨンタッチの絵というのは、世界中で、結構、流行っていたんです。ズバリ、そのクレヨンのタッチを生かしたデザイン。
 

ということは、重ねていくと、それなりの面白さがあって。
これ4色使っていてですね。4色全部を使ったっていうのはあるのかな? ここは黄色、青、ピンク、緑はないね。

だからそれぞれ、4色の色配分、色の配分を、いろんな変化をつけたもので、風景(Maisema)という柄になっています。例えばこちらですと、これ、緑が完全に抜けているわけですよね。その時のカタログには、この生地をキルティングして商品にしたものもあります。

Maisema(1982)

⚫︎Ostjakki
これは絣、例えば伊予かすりとかですね。昔、伊予かすり会館(愛媛県松山市)というのがあって、そこを見た印象ですね。

絣という一つのキャラクターをプリントにできないかということで、こういう掠れたようなぼかしというか、それを使ったデザインです。だから、マリメッコって普通、最初(第1回)にお話したような、すっきりとした色使い、こういったものがベースにあった訳だけど、ぼかしのテクニックのものもやっています。
 

で、これ、配色するのにね、僕自身が色を決めるのではなくて、実は原色の色紙をずっと並べて、プリント工場の人にその色紙から色を拾ってもらいました。それが良かったと思うんですよ。

もし僕がやっていたら、もう少し冴えたオレンジになっていた。僕のテイストとしては、彩度のあるものを選んでしまうのですけど、結果的にちょっと落ち着いたオレンジになりました。

この柄は今もリバイバルして、いろんな商品に展開されています。

Ostjakki(1983)

⚫︎Koski
墨流しって分かりますよね。油性の黒い水の上にね、こう色々出てくる模様を和紙か何かに写し取って、それを元にデザインしたものなのですけど。

これは、2度プリントしています。最初、背景にこの黒とグレーのものがあって、その上に2度目にこのブルーをプリントしています。だから、この2度目をどこにスタートするかによって、ちょっとした色の柄の違いも出てきます。
 

Koski(1987)

続いていく一枚の布に、風景を描く

⚫︎Kesanto
このプリント名 "Kesanto" は、畑を休ませている休耕地。フィンランドでは、よく麦を植えたり、そのまま何年か何もしない、もうこういった雑草が生えるだけにして、逆にそれがその土地を肥やすというふうに言われています。で、草花とかいろんなものが生えてくるんですけど、その風景を描きました。

この辺り、これはカーネーションみたいなものです。日本語で何て言うんだろう。撫子でしょうか。撫子、朝顔、そういったそこらに生えている野の花。

これの原画を描く時にはですね、日本の夏に見かける提灯にこういった草花を描いたものがあるのですが、そのイメージをこの時は狙っていました。日本にある草花の表現の仕方というのを。

Kesanto(1988)

それでこれの中でね。こう全体が細かい絵柄ですけど、一つだけ蕗の葉っぱみたいな、でっかい葉があるんですよ。これがすごく気になってね。ちょっと目障りじゃないかというので取ってみたりもしたんです。これが出来上がった後でね。だけどやっぱりこういうちょっと異質なものがある方が、柄は生きてくるということを経験しました。

気になったという大きい葉の部分

全体がこの辺りのでいくとおとなしくて、なんかパンチが出ないんだよね。繰り返すとね、こういう大きなものは目障りになる場合もあるわけですよね。でも、これだけは、ボンボンとこう出て、逆にそれが元気にする、柄が生きてくるということもある。

僕自身は、例えばライセンスで展開する時、ちょっとこれ気になるねって言って、なくしたりしたんです。そうしたら、なんか面白くないんですね。そういう経験があります。
 

⚫︎Lepo
この柄名は、休息(Lepo)。休もうという意味にしました。

というか、こういった草むらでごろんとなってね、野良仕事の間に一休みする。僕自身なんかもそういう経験があるわけです。この柄は結構長く生きています。

故郷・砥部にもあるし、こういう草むらはどこにでもありますよね。一応フィンランド語でLepo、休息です。で、このLepoという名前は、松山三越の上にできた茶玻瑠のホテルにも使われています。

⚫︎Paratiisi
パラティッシュ、パラダイス、楽園です。
いろんな果物がこう茂っているっていう感じの。
 

Paratiisi(1997)

⚫︎Selanne
名前はSelanneというんですけど、湖から見た森とか空とか、そういう風景をイメージしています。

これは、ここからここまではベタというか潰しで、あとぼかしてくるとか、これ少しぼかしこのぐらいでとか、そういう、紙の上での指示だけでできる柄です。これは、筆で書くとかそういう必要はないので、原画はないです。プランの図表って言ったらいいか、そういうものだけです。何センチこうあって何センチぼかしてと。

多分これ一つの中に、これで配色5色ぐらいは、使っていますね。だからその色をそれぞれこの版には何色というふうに指定していくわけです。だから配色としてこれも5色、5配色ぐらいは確かにあったと思いますよ。その中で、これは1番おとなしいやつです。

結局マリメッコの場合もですね、60年代、マイヤ・イソラが大活躍していた頃は同じようなタイプで、絵柄をどんどん変えるということで展開していたのですよ。だけど、これからはやっぱり少しずつなんか雰囲気の違ったものを求められたのですよね。だからあれこれスタイルとしても変わってきたと思うんです。
 

Selanne(2003)©Marimekko


マリメッコの中で、新しいアイデアが求められた時代に、デザイナーとして応え続けてきた石本さん。今回、紹介いただいたデザインは、時を経て今もなお愛されているものばかりです。その着想やエピソードは、砥部の地で、ものづくりに携わる人々に響いたのではないでしょうか。

講演終了後は、砥部のつくり手の方々とのフリートークが行われました。ファブリックを間近で見ていただいたり、質疑応答に答えていただくなど、終始、あたたかな雰囲気の中で交流会は終了しました。
 

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