石本藤雄講演録「マリメッコでのテキスタイルデザインを語る」2

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石本藤雄講演録「マリメッコでのテキスタイルデザインを語る」2

石本藤雄の故郷・愛媛県砥部(とべ)町は、砥部焼の産地になります。この故郷の地で、2022年4月22日に石本藤雄と砥部焼の窯元の方々との交流会が開催されました(主催:愛媛県、場所:愛媛県窯業技術センター)。
会の中で、石本藤雄がマリメッコのテキスタイルデザイナー時代に手がけた多数のデザインの中から特徴的なものを数点選び、貴重なエピソードを語りました。そのスピーチの第二弾です。
 

前編はこちら


 

1970年代初期の名作

⚫︎Kukkaketo
次にお見せするのがKukkaketo。先ほどのKujaのデザインと一緒に、こういった優しい花柄を同じコレクションに入れて提案しました。この時も花の花弁が4個の四弁の花。だから花と草ですよね。この点(Kukkaketoの中の4つの点)は、自分でも分からないけど。

この柄は、その当時、フィンランドでも理解していただいて結構売れました。それでアメリカのマリメッコがやっていたライセンスでは、寝具としても使われています。日本でも、西川さんとマリメッコはライセンスの商品づくりをやっていたのですけど、その中にも入っていたと思います。70年代後半の話です。

Kukkaketo(1975)

⚫︎Sumo
先ほどちょっとお話に出したSumo。この柄名は、日本の相撲です。
マリメッコを創業したアルミ・ラティアさんが名前をつけてくれたんです。僕はその名前が出た時、まあどこまで相撲っていうのを知っているのだろうと思ったけど、よく見るとやっぱりその雰囲気はあるんじゃないかと思うのですよ。僕自身の初期のマリメッコの代表作になっています。
 

Sumo(1977)

途切れることなく、続くデザインを

⚫︎Taiga
次は、Taiga。書籍『石本藤雄の布と陶』の表紙にもなっていますけど、14、5年後に、うんと大きく拡大して、Suuri Taigaになっています。

日本語に訳して「草原」。寺山修司の作詞で、カルメン・マキの「ヤギにひかれて」という歌があるのですが、僕、それがすごい好きで聞いていて。こう草原をね、向こうに行ったら何があるんだろうっていうイメージで、このデザインもつくったものなんです。

で、まあ、こういう自然の中の状況っていうのは、8月頃の水田ですね。まだ穂が出る前に、風にこうなびいている、葉の先っちょ。そのイメージを持っていました。

テキスタイルというのは、途切れることなく続いていける、そういう柄ができたら1番いいなと僕は思っていました。これは、その一つなんです。だからどこで切ってもいいんですよ。

Taiga(1978)

⚫︎Suo
このSuoの柄は、日本の小紋的な性格のものだと思います。
今、広げているのは、クリスマスシーズンのために、こういった金色のプリントのものをつくったのですね。これを何にするかというと、テーブルクロスはあるでしょうけど、あといろんな小物をつくっている人もいました。例えばメイクアップ用のポーチにするとか。

Suo(1979)

マリメッコで、ぼかしの表現を

⚫︎Kuiskaus
Kuiskaus(クイスカウス)というのは、ささやきという意味です。この時のコレクションには、このささやきと、あと叫び(Huuto)という二つがありました。それらの名前は、スウェーデンの映画監督、イングマール・ベルイマンの有名な映画の題名(叫びとささやき)、それを名前につけたのです。

で、まあこういった、ぼかしの感覚ですよね。マリメッコの中で、僕は、こういうぼかしをよくやっています。最近、リバイバルしてくれて、ドレスにもなったし、あと毛布にするとか、クッションにするとか、いろんなものにマリメッコは再度、展開してくれました。

Kuiskausは2つの版で、ここがつなぎになるんですけどね。これね、微妙に重なっていて、日本だとこれはB反になるんですけど、マリメッコはまあそういうものもまあいいんじゃないかということでB反にならない。

どうしてもね、2ミリぐらい重なりが出るんですよ。それは、日本のプリント柄の考えでいったら、デザインとして駄目になるんです。でっかいロールプリントでこのリピートをもう少し小さくしてやれば、別にそういう問題はないわけでしょうけど。

そういう日本ではB反になるものが、逆にマリメッコでは技術的にそれしかできないということで、Aクラスになるんですよね。で、逆に日本人がそれを見ると、どうしてこういうものができるんだろうっていう、そういうこともありました。

Kuiskaus(1981)

微妙な重なり部分

残念ながらここにはない生地ですけど、最初、生地を染めて、そこに柄をプリントして、地色を抜いて新しい色を差すっていうテクニックがあるんです。その場合、日本の染色工場でやると、その柄の縁には何も出ない。白い縁、縁取りとかね、もうズバリ地色と柄の色が隣合わせにできる、それが日本のテクニックなんですけど、マリメッコはそれができないんです。で、微妙に白い線が出るんです。だから僕は逆に、その白い線が出るデザインをやったりしました。

だから、ちょっとした考え方で、傷物も傷物でなくなるということです。日本では、その細い、あの周りの縁取りの線をいかに出すかというのは、逆に難しいと言われたんですよ。

デザインとして白い線を入れたMuru(『石本藤雄の布と陶』より)


講演録③につづく>>
Maisema、Kesantoなど、80年代の名作が登場します。(6月10日公開予定)

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