石本藤雄が描いた心地よい”風”

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石本藤雄が描いた心地よい”風”

風薫る季節に、店頭で先行発売していたTUULIカップが、オンラインストアにも登場です。「TUULI」とは、フィンランド語で「風」を意味する言葉。その開発ストーリーを石本藤雄さんに聞きました。TUULIカップにお茶を淹れて、話が始まります。

クラシックな形に美しさを

開発のきっかけは、昨年発売したSOBAシリーズのプレートに合う器が欲しいというところから始まりました。「そば皿」と呼ばれているそのプレートは、石本藤雄さんが1994年にフィンランドのアラビア社で制作した陶芸作品を、愛媛の焼きものの産地・砥部で再現した器です。有機的なフォルムと表面に刻まれた細いストライプが特徴で、艶やかな紺とマットな白の2色を発売しています(詳しくはこちら)。

そんな存在感のあるプレートに合う蕎麦猪口を考えていたところ、ある砥部焼の湯のみに出会います。少し大きめで、飲み口が若干すぼまっている形状。古くから続くクラシカルな形なのだそうです。その佇まいは、手に取った石本さんの感覚に響きました。

「そば皿に合うと思ったんですよ。こう、くびれた部分に指がかけられて、ONNEAのゴブレットと同じような感覚があるよね(ゴブレットの記事はこちら)。一般的な形だから、リバイバルしても問題ないということで、形はこれに決まりました」

石本藤雄のトレードマーク

形が決まり、さらにデザインを詰めていきます。これまでのMustakiviの食器では、形や釉薬の色で表現してきた石本さんですが、今回はこの形にあわせて、絵付けでの表現を選びました。

そのために展開図に筆ペンを走らせた石本さん。当時描いたデザイン原画を改めて眺めて、「僕の典型的な絵柄。草むら。僕のトレードマークです」と語ります。

そんな石本さんの子どもの頃の草むらの思い出を聞いてみました。
「草ねえ、遊ぶというより、草を刈り取って、ヤギの餌とか牛の餌にしていたなあ。白菜を刻んで鶏にやったりとか。農家だったから、子どもでも働くのが当たり前だった。だから、お正月なんかは子どもにとっては遊ぶ日だけれど、牛はお休みだからって食べない訳にもいかず、餌を考えないといけなかった」

草は、ノスタルジックな思い出というよりも、子どもの頃の石本さんにとっては暮らしの一部だったようです。

誰もが当たり前と通り過ぎてしまいがちな日常にある自然や風景。その中から、美しさを見出し、数々の作品へと昇華させてきた石本さん。見慣れた草むらも石本さんの手にかかると、草そのものを通して、そよぐ風や揺れる音、草の匂いも運んできそうなデザインとなりました。

「二度と同じものはできないね」

石本さんの手を持ってしても、全く同じ線は再現できない、そんな勢いのある一瞬を閉じ込めたデザインと言えます。
 

下書きの様子

本番の原画

2種の風を暮らしの中に

完成したデザインは、砥部の窯元・すこし屋で転写しています。カラーリングは様々なパターンを検討した中で、最終的に2点に絞られました。
1つは、ブルーの上絵付けで草を表現した「BLUE」。マットな質感です。もう1つは、撥水転写を施し、透明釉が草の線を弾いて凹み、凸凹した手触りを楽しめる「WHITE」。こちらは艶のある質感です。どちらも生成りのようなあたたかみのある白がベースで、ファブリックを彷彿とさせます。
 

湯のみとしてはもちろんですが、酒器として、小鉢としてお惣菜を盛り付けるなど、使い方は自由です。SOBAシリーズはもちろん、ガラスのプレートや洋食器にも馴染むデザインです。

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